睡眠障害は大きく分けると、不眠症、睡眠関連呼吸障害、中枢性過眠症(ナルコレプシーなど)、 概日リズム睡眠・覚醒障害、睡眠時随伴症、睡眠関連運動障害、 その他に分かれます。 その中で、どのタイプの睡眠障害かで治療法も異なってきます。 歯科分野では、睡眠関連呼吸障害の閉鎖性睡眠時無呼吸症候群及び上気道抵抗症候群が関与します。
上記にあげた中の「睡眠時無呼吸症候群」は歯科医療が関わる睡眠障害の一つになります。睡眠時無呼吸症候群とは「いびきが大きい」「寝ている時に息が止まっている」「起床時の頭痛」などの症状があります。
体内では睡眠中の酸素濃度が下がるため、これを補うために心臓の働きが強まり、高血圧になります。また酸素濃度の低下により動脈硬化も進み、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。さらに睡眠不足によるストレスにより、血糖値やコレステロール値が高くなり、さまざまな生活習慣病やメタボリック・シンドロームがひきおこされます。そして生命予後(生存率)に関わります。
睡眠時無呼吸症候群は専門の医科医療機関(内科や耳鼻咽喉科、睡眠医療センターなど)で診断をうける必要があります。そしてマウスピース治療が必要と判断された場合、その医療機関の依頼をうけ歯科医院でマウスピースを作製します。
睡眠時無呼吸症候群にはマウスピース(オーラルアプライアンス:以下OA)を使用して治療を行います。
患者様専用のOAを作り、夜間(睡眠時)に装着します。マウスピースを装着することで下顎が落ち込むのを防止し、気道を確保し無呼吸を防ぎます。なおマウスピースは使用し続けると噛み合わせに変化がでることもあるので定期的な受診が必要です。
【メリット】
保険適応なので費用が安価です。
【デメリット】
上下の顎が固定されるため顎が動かせません。
よって会話や水を飲むこと、咳やあくびができず不快感が強い傾向があります。
※医科医療機関からの紹介状が必要です
【メリット】
上下が独立しているので顎を動かすことが可能で装着中に口を開いたり、会話や水を飲むこと、咳やあくびも自由にできます。
下顎の前方へ出す量をご自身で調整できます。
【デメリット】
保険適応外(15万程度)
子どもの睡眠障害は、脳機能の低下につながり、記憶力・判断力・注意力・意欲が低下します。また、自律神経機能も乱れて、体調不良になり、体力が低下します。同年代の子どもに比べて“出来ないこと”が増えるなど、子どもの発育・発達に大きな影響を及ぼすことがわかっています。
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小児のSRBDの一般症状
夜間見られる症状 | 日中にみられる症状 | ||
・いびき ・荒い鼻息 ・寝相が悪い ・夜尿 |
・睡眠中に呼吸困難になる ・眠りが浅い ・夜間に目覚める ・吸気時に胸の一部が陥没する(陥没呼吸) |
・多動性、衝動性をともなう行動特徴(ADHD) ・成長ホルモン減少による成長障害(FTT) ・頻繁に居眠りをする |
・寝起きが悪い ・記憶力の低下 ・学習障害 ・口呼吸 ・長時間昼寝をする |
鼻が悪い、詰まっている、そしてポカン口になっているようなお子さんは、顎の発育が悪く、また歯並びも悪いといった共通した特徴があります。理由としては現代の軟食化による弊害が鼻閉→口呼吸→顎の発育不良へつながり「不正咬合」へ波及したものと考えます。すなわち鼻づまりと顎の発育と歯並びは密接に関係していることがうかがえます。
矯正治療で使用する「急速拡大装置」は、骨格的に上顎を拡大します。
また副次効果として鼻づまりの改善に効果があります。
上あごの天井が広がれば天井裏の鼻腔(気道)も広がります。
したがって鼻で楽に呼吸できるようになり鼻呼吸に改善する環境が整います。
このように慢性的な鼻炎、鼻詰まりで、かつ歯並びが悪い(顎が小さい)場合は、急速拡大装置で鼻詰まりが改善する可能性があります。またできるだけ早い時期に鼻閉の改善をおこなうことは、良質な睡眠ならびに健全な発育につながります。
※鼻閉の改善があるから急速拡大をするということではありません。歯科医院で適切な診査診断をおこなって顎骨の発育不良が認められれば治療をおこないます。また矯正治療のため保険適応外になります。
小児期のような発育途中におこなう場合、効果が出やすいのですが、ある程度発育が終わった思春期〜青年期になると、上顎の骨が硬くなり(口蓋正中縫合の癒合)拡大が難しいという欠点がありました。近年、それを解消する新しい急速拡大法が使用されるようになってきています。往来の装置を歯に装着し、さらにネジ(歯科矯正用アンカースクリュー)で固定して広げていく方法で「MSE」 や「MARPE」と呼ばれています。この装置の登場により今まで難しかった思春期以降の拡大が容易になり、鼻閉の改善が期待できるようになりました。
睡眠障害は成人の場合、様々な原因があり歯科が関係するのは睡眠障害のなかでも睡眠時無呼吸症候群、
さらにその中の閉塞性睡眠時無呼吸症候群が該当し、治療としてはマウスピースによる対症療法、
もしくは入院して骨格を改善する手術を大学病院や総合病院などでおこないます。
それに対し、子供の睡眠障害は鼻づまりが原因であることが多く、その場合は急速拡大装置による矯正治療で改善する可能性があります。
実際、鼻づまりが改善し睡眠が改善する、おねしょがなおる、いびきが改善する、扁桃腺の腫れが小さくなるなど、
鼻閉の改善はもとより、それに起因する様々な病態が改善する子ども達を多く見受けます。
そして子どもの睡眠障害は、成長発育・心身の発達に大きな影響を及ぼすので早い時期に治療を開始することが健全な成長発育につながります。
このように年齢によって対応は大きく変わりますが、小児における睡眠の関わりは今後歯科医が大きく関わる分野になるかもしれません。